33:75TSインプレッション(2)(1998/03/06)
(2)エンジン
 エンジンは基本的に前世代の4気筒エンジンと同じ、アルミブロック、8バルブ、1962cc、チェーンタイミングのDOHCだが、それまでの広角の80度バルブではなく、近代的な46度に替えられ、さらに1気筒当たり2本のプラグを有する「TwinsPark」になっている。さらに吸気バルブ側には可変式バルブタイミングが備えられたハイテクエンジンだ。最高出力は145ps/5800rpm、最大トルクは19.0kg-m/4000rpmで、当時の国産車で言えば標準的な2リッタースポーツクーペをやや上回る程度。この数値については初め、1.2tの車体には完全に役不足だと思い込んでいた。それがいかに間違っていたかは後述。スペックなんてものはそんなものだと思う。

 始動やアイドリングは、インジェクション(ボッシュ製)のため、当り前だが何の気遣いもいらない。キャブに比べれば確かに低回転時の素早いアクセルワークに瞬敏さはかけらもないが、それでもトランスアクスルのアルファであれば、その違いがさほど重要な意味を持っていない事に気付く。  そのトランスアクスルだが、驚いたのはアイドリングの癖が殆ど感じ取れなかった事だ。Alfettaであれば、どんなにベアリングや組み付けをしっかりやっても床下のプロペラシャフトがエンジンと等回転で回っているという様なモーメント感がひしひしと伝わってきた。
75TSはそういう部分の精度がかなり上がったのか、いたって普通のクルマの様に感じる。面倒やストレスがなく、気軽になった。ちゃんと作れば、トランスアクスルとは決して構造上無理のある機構ではないのだと改めて感じた。この機構の良さが殆ど理解されることなくこの世から消え去った事が悔やまれる。

 ところで、それまでの4気筒エンジンの「アルファサウンド」と、75TS以降のTwinSparkエンジンの音では、その意味が全く異なる事に改めて気付かされた。その違いが顕著に出るのはアイドリングから3000rpmまでの音だ。旧エンジンでは、この回転域はあくまでも野太く吠える様な乾いた音だ。そして回転が高くなるに連れて盛り上がるような金属音に変わって行く。それはあくまでも豪快で、しかし金管楽器のようなフィーリングがある。
 75のTwinSparkエンジンは、この低回転域の叫びが全くといっていいほどない静かなエンジンだ。スロットルを開けて行く過程においてもお世辞にも上品とは言い難く、以前の様にうるさいながらもそれなりに「聴かせる」部分があったのとはまるで異質だ。
 もっとも、これはアルファに限らず昨今のイタ車全般に言える事で、もはや「アイドリング時から官能的」な新車などというものは存在しない。まあいつまでも「速いクルマは音がいい」などとというノンキな事を言ってられないEUの事情もあるのだろう。    (左下に続く)



(右上から続く)
 そのかわり、3500rpmを超えたあたりからイエローゾーンの最後までは相変わらずというべきか、いっそうというべきか、間断なく実に素晴しい音を奏でる。そのスムーズさは、やや粗野な印象さえ受けるAlfettaの2000ccエンジンとは比較にならないほどの美点だ。例えて言うなら、内燃機関ではなくまるで豪快な「滝」あるいは押し寄せる「波」の音。それに「クォーン」というDOHC特有の咆哮が交じる。

 V6を始めとする80年代のアルファエンジンには、中〜高回転域に至る過程に、一種独特の豪快さと音程感がある。そしてその音の源流を探れば、やはり1300cc〜2000ccの、GIULIETTA以来のアルファツインカムにその要素の全てを求める事ができるだろう。
 つまりは、かつての2000cc化の影響で失いかけた、エッジの効いたビビットな「サウンド」が、V6エンジンやTwinSpark2000ccで辛うじて取り戻せたという事になるのかもしれない。そう思わせるに足りるほど、高回転域での、溶けるような流れる様な音程感は強調されて室内に気持ち良く響く。
 これを前時代的というかどうかは分からないが、もしこれが「アルファサウンド」ならば、155TSなどに積まれる16Vでは、アルファシンフォニーはもはや「コーダ」を終え、次の曲に入ったと言わざるを得ないものがある。
 ブロックが鋳鉄だからとかFIAT製だからと言うのではない。聴いた音の結果論として、16V 4気筒にはもはやかつての様な「アルファサウンド」という大時代的な形容は荷が勝ちすぎている。それは効率や環境の事を考えた結果として至極当然であり、ある「解」を出したという点で音の完成度を捨てる程の十分な価値はある。しかしながらそれは同時に、FIAT SuperFIREやHONDA V-TECを選ぶか、ALFA TwinSparkを選ぶかの理由にはもはや「音」を最優先事項に入れる様な時代は過ぎ去ったという事も意味している。

(もちろんそれであっても、アルファのDOHC4気筒は、いまだに他のどんな乗用車エンジンより気持ちがいい事は確かなのだ。ただしSuperFIREも劣らず気持ち良い事を断わっておかなければならない)

 少々感傷的過ぎるかもしれないが、75TSのTwinSparkやV6を高回転域を強調した「最後の4気筒アルファサウンド」とするならば、本来のトレードマーク付きの「真性アルファサウンド」とは、あくまでGiulietta〜Alfetta時代の、燃焼効率よりも、重量や吸排気効率が優先された時代の広角バルブ/キャブ/アルミブロックという3種の神器を備えた4気筒エンジン音にこそふさわしい称号だと感じるのだが、こだわり過ぎだろうか。でもそう言えるだけ、アルファのサウンドというのは「ジドウシャの原風景」に近い音なのだ。



34に続く