アルファのエンジン

 アルファの旧式4気筒エンジンは1950年代に設計されたもので、本来的には吸排気効率を主眼においたエンジンのため、トータルなエミッションコントロールには不向きと言われています。しかしこのエンジンは1993年まで使われ続けました。これを「当時のアルファには低公害エンジンを作る余力などなかった」とするのがもっぱらの評価の様です。
 ところがもう少し調べてみると、アルファの4気筒エンジンにはちょっと面白い特徴が隠されている事に気付きます。アルファのバルブ配置は吸排気効率を最優先に取った設計になっています。そのために燃焼温度が低くできるので、精密な燃料供給制御さえ可能ならNOxの排出量を抑えられるというのです。つまりエンジンの設計を変えなくても、二元触媒だけでマスキー法をなんとかにクリアできるというアドヴァンテージを元々持っていた訳です。

 そこでアルファはレースでGTAやTipo33に使用したスピカ製の機械式インジェクションを持ち出しました。こうしてエンジンに殆ど手を付けずにマスキー法をクリアしたのが、2世代目のAlfetta2000GTVです。当時のCGの記事には、同時代の排ガス規制に苦しんでいた他のクルマよりは快活なエンジンとするインプレッションも見られます。
 それでも同じアルファの中で比べれば、どうしても1800ccからの出力の低下は否めません。後にキャブ+三元触媒で復活したgtv2.0の120〜125馬力という数字にすら到底及ばないのです。残念ながらこのスピカインジェクション世代のAlfaはアルフィスタにとっては不評です。

 次にアルファは、従来型エンジンの規制クリアで時間を稼ぎながら、平行して開発を進めていた新エンジンをエミッションコントロールの根本的解決に使いました。エンジンをより大排気量にし、インジェクションと三元触媒とを組み合わせる事によって性能と低公害化の両立を取ろうという訳です。それがV6エンジンです。このV6は、最初からキャブよりもインジェクションと相性の良いエンジンでした。そしてオイルショックや排ガス規制の嵐が吹き荒れた時代としては異例と言えるほど高い評価を得ました。一度そのエキゾーストノートを聞けば誰もが惚れ込んでしまう程の名作エンジンと言われているこのV6エンジンは、GTV6やアルファセイ、ミラノなどに積まれてアメリカで支持された他に、現在でも現役で輸出型の主力エンジンとして搭載されている程です。しかし本来的に言えば、フロントサスを深く沈み込ませるコーナリングを持ち味とするアルファの旧態依然のシャシには、4気筒に比べてはるかに重量が重いために、あまりマッチングがいいとは言えません。V6エンジンが本当の意味で賞賛されたのは、重量バランスにさほど気を使わずに済んだTipo164の登場を待たなくてはなりませんでした。

 一方、なんとか排ガス規制をクリアした旧式4気筒の方は、さすがに設計の古さはいかんともし難く、このままでは輸出用としては使えない事態になってきました。そこで1987年、アルファは新型の4気筒エンジンを発表します。それがツインスパークエンジンです。75と164に採用されたツインスパークは、旧来エンジンの基本を踏まえながらも、バルブ挟み角を変えたりプラグを2本にして、リーンな混合気でも完全燃焼が可能になるなど、燃焼効率を前面に押しだした機構が盛り込まれました。
 その結果、旧式4気筒が、触媒によってだいぶそのフィーリングをスポイルしてしまっていたのに比べ(触媒なしに比べて5〜10PSダウン)、ツインスパークエンジンは触媒の存在を感じずにレスポンスやパワーを十分楽しめるエンジンになっています。触媒なしと触媒付きのカタログ値は、148PSに対して145PS。その差たったの3ps。個体差を考えれば無視できるレベルです。当時のドイツ車が軒並み10psもの差を出していたのに比べれば驚異的な効率です。このツインスパークエンジンは当初Tipo164に搭載される予定でしたが、164の開発の遅れも影響し、一足先にTipo75に搭載されることになりました。これが面白い事にベストのマッチングだったのです。



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