45:75の弱点(3)(1998/11/18)

 この前後荷重移動の難しさを、最初は、Alfettaに比べフロントヘビー&バネが柔らかい事が影響しているのかと思っていました。よく、V6エンジンを積んだ現代のアルファなどが切れ込みがきつく、深くなるに従ってアンダーの収束が難しいという点を指摘されているので、75も前バネが弱いのかなあと思っていました。が、走り込んでいるうちに、これはバネの問題よりも前後のロールに差がありすぎる事のほうが重要なのではないかと思うようになってきました。そしてこれは絶対的なロール量ではなく、「ロールの始まる早さ」に関係がありそうだということも分かってきました。

 初期の切れ込みがあまりに早く深いために、タイヤやサスの粘りだけで曲がるならかなりクルクルと旋回できるのですが(それはもうAlfetta以上に)一旦フロントにアンダーが出てしまう様なスピードで突っ込んだ場合には、姿勢は前のめりになったまま、なかなか荷重を後に持って行くのが難しくなります。
もちろん、ステアリングで意図的にロールを制御してやることも不可能ではないのですが、こと僕の腕で言えば、「突入速度を間違った」という様な場面で、一度切れ込んでしまった75をきれいに制御するのは殆ど不可能に近いテクニックとなってしまいます。そんな訳で、ステアオーバーのきつすぎる75に、若干持て余し気味の日々がしばらく続きました。

しばらく考えこんだ末「これは取り合えずショックを交換してみるしかないな」という結論に至りました。絶対的なロール量を変える事なくロールスピードを調整すれば、少しは扱いやすくなるかもしれません。要するに前サスのロールの始まりを遅らせることで、切れ込みを少なくしてやろうという魂胆です。
 最初の候補は「低速での乗り心地を大事にしながら、ロール限界域で良く粘るKONI」でしたが、首都高で期せずして大逆ハン大会をやらかしてしまったのを期に、低速を犠牲にしてでも、初期のロールを完全に殺してしまえる高圧ガスショックを試してみることにしました。そこでBILSTEINを選択しました。

 結果は。。。このBILSTEIN、アルファにはあんまり向かないのでは?という評判もありますが、こと僕の75に関しては、完璧に初期ロールを遅らせてくれる様になりました。初期のロールが遅れるというのは、実は一般論でいえばアルファにとってはあまりいいことではありません。何故なら、先にも書いた様に、アルファのロールはヨーと密接に結び付いていて、ヨーアングルを大きく取らないと曲がらなくなってしまう可能性があるからです。実際、中低速では以前の様にグラっと曲がるアルファらしさはやや薄くなった気がします。でもそんなコーナーは、元々ステアリングを大きく左右に振れる様にできているアルファでは大した障害にはなりません。例えば首都高の銀座線の細かい連続カーブなどでそういう性能を試すことがありますが、ステアをやや大きく振る事によって、むしろ以前よりキチンとトレースできるようになりました。僕の様にシビアなステアリング角を取れないドライバーにとっては、アルファ特有の甘いステアリングが気にならなくなったという点でむしろ好都合と言えるかも知れません。
 今のところ、僕の目論見とBILSTEINの選択は見事にうまくいっているように思います。また、「BILSTEINは跳ねる」といった評判も、この75には無縁の性格の様です。 さて、それで上の問題は全て解決できたかというと、残念ながらそうはなりませんでした。やはりいくら前サスの初期沈み込みを換えても、ロールの絶対量は変わらない訳ですから。「ややマシになった」と言う程度です。 上の問題を全て解決するためには、さらなる75との格闘が必要なのでした。(といってもチューニングの話ではありません)

 余談ですが、個人的には、75TSというクルマは、乗用車としては非常に良くできたクルマだとは思います。トランスアクスルが何のためにあるかという必然性も、Alfettaに比べるとかなり実用的に煮詰まっています。
 しかし同時に、末期のアルファがAlfettaで辛酸をなめ尽くした「信頼性」というポイントに気を取られるあまり、クルマとしての理想や面白さをかなりスポイルしてしまった様な気もしてなりません。アルファの美点が何か?という視点をどこに置くかにもよりますが、僕はこのアルファ製最後のFRスポーツセダンだけをして「アルファロメオ」を高らかに語ってしまうのには、やや抵抗を感じます。



46に続く