8 ナンジャコリャなクルマ(2000/08/31)

楽器ということは、奏でるという作業があるってことです。

奏でるってことは、習熟が必要だってことです。

でも実際に、アルファをクルマとして動かすだけなら、たいした練習は要りません。

シンクロがヘタってるのが多いから、シフトのコツがちょっと要るだけです。

でもそれって、アルファにしてみれば「音が鳴ってるだけ」なんですねきっと。

電子楽器の繁栄のおかげで、楽器演奏は身近になりましました。 誰でも簡単に音が出せるから。

ただ、誰が出しても同じ音。 そして誰でも そこそこ弾ける。

けれども、楽器がアコースティックだった時代は 奏でると音を出すという事には、天と地ほどの差があります。

奏でるために、とんでもない量の練習が必要なのです。

バイオリンという楽器があります。面白いもので、バイオリンの生産地(or製作者)で 最も有名なのはドイツ、イタリア、日本。

何かと似てるでしょう?

残念ながら、僕はイタリア製のバイオリンを弾いた事がないけれど、むかーしむかし、日本製とドイツ製は長いこと弾き込む経験をしました。

バイオリンという楽器は、初めての人には相当に奏でるのが難しい楽器です。

最初は「なんじゃこりゃ?」みたいな音しかでないのです。

アルファは、こういうアコースティックな楽器に似ています。

ところでバイオリンも 日本製(といってもピンキリなので一概には言えないけれど)は クルマと同じように、品質がとても安定しています。

ただ、弾き込んでも、いわゆる「枯れた音」を出す感覚はありません。

ドイツ製は、初めて手にした時、弾けなくて 思うように音を出せなくて本当に大変でした。

実は、僕がすっかりバイオリンから遠ざかってしまう原因になったのが こいつのせいなんだけど、とにかくそれまで日本製のふやふやなバイオリンに慣れていた僕には ガッチガチにカタイ感じがしてしょうがありませんでした。

(ふやふやの日本製-もちろん安物-は、本当に自由に弾ける代わりに、どこまで行っても深い表現やビブラートが出せない)

「カタイ」というのは、実際に何かがカタイというよりは 出る音が、どんなに頑張ってもカタイ。。。というようなそんな感じ。

「ああ、工業製品」て感じ。

気が付くと右手も左手も張ってる。

で、我慢して弾き込んでゆくうちに 真っ先に「駒(ブリッジ)」と呼ばれる部品や 「ペグ」と呼ばれる部品から、精度がとれて丸くなって、緩くなってくる。

そこを調整して、いわゆる「ヤレ」の兆しが見えて初めてやっとバイオリンらしい音が、何となく出るようになる。

ここまで来るのに、3年ぐらいかかりました。

枯れた音どころか丸い音すら、この先望めるのだろうか?? この事に気づいて、ふと僕はイタリア製のバイオリンを 弾いてみたい衝動にかられました。

もちろんストラディバリなんて言いません。その辺で買えるのでいいのです。

でも、弾かなくてもおおよその見当は付いてます。

きっとオンボロな音なんだろうと思います。

そして 他のバイオリンとどこが違うのか全然分からないんでしょう。

でも、その個体にしかない、その楽器を奏でるための 独特のコツを掴むと、きっと手放せなくなるんだろうなって そんな気がします。

初めてアルファに乗ると、「なんじゃコリャ?」 どんなアルファに乗ってもそう思います。

同じ車種でも、他人のアルファに乗ってみればそう思います。

走るだけなら、いくらでも優れたクルマがあります。

どうして、こんなバランバランなクルマをありがたがるのか みんな不思議がって当たり前。

でも、アルファ乗りはそうじゃないんですね。

奏でて初めて「アルファ」を知る。

そして、コイツを奏でるためには 教科書通りの扱いじゃダメなことをよく知っています。

アルファに限らず、イタ車全般にも多かれ少なかれ言えることだけど、アルファは特にそれが凝縮されて出てくるクルマですね。

2万台のクルマがあるなら、2万通りの奏で方があるということ。

日本製に慣れきってると、これは分かりづらい感覚かもしれません。


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