31:トランスアクスル?(1998/03/04)
 AlfaRomeoは実にヘンテコなクルマです。いや、アルファに限らず、イタリアやフランスのクルマには、どこかドイツ車や日本車にない「フツーでない」ファクターが多くあります。もっとも、クルマが必需品の今日では必ずしもいい意味だけを指すとは限りません。が、クルマ好きにとってはたまらない魅力でもあります。
 実は案外「良くできたクルマ」ほど、その個性をはっきり認識するのには時間がかかるものが多いのですが、1972〜1992年までのアルファの中心車種、つまり「トランスアクスル」式アルファと呼ばれるクルマは、誰が運転しても、ものの5分でその凄さに舌を巻く(痛い)事ができると言われます。
 その「トランスアクスル」とは一体全体なんぞや??? 
 
●右の絵は、クルマの原始的な仕組である「FR」方式というものです。前にエンジンがあって、後輪を回して走ります。ついこないだまでは、日本車の主流はコレ。が、現在は高級車にしか使われていない絶滅寸前の方式です。後輪で地面を蹴るのに、前だけが重いので、全体の重量を重くするか、たくさん人が乗っていないと滑ったりします。操縦感覚はベスト。(例:ベンツ、BMW、ジャガー、トヨタクラウンなど)
●現代の殆どの小型車が採用しているのが「FF」方式です。全てが前に寄ってズッシリと重くなっています。アウディ(アウトウニオン?)が初めて作ったそうです。乗車人数によって重量のバランスが変わりにくいため、フツーに走るためにはこの方式が最も効率がいいのですが、速く走るためにはそれなりの設計がなされたクルマでないと危険です。雪道、特に上り坂に強いのが美点。(例:日本で初めてFFを量産したのはホンダ)
●今ではほぼ絶滅した方式です。発明したのはポルシェ博士。FFと同じく駆動輪に重量が集中して効率がいいので、一時期は世界中の小型車の主流になりました。でもあんまり飛ばすと危険なタイプ。(例:VWビートル、FIAT500、スバル360)
●そして一番下の絵が、1972〜1992年までのAlfaRomeoに採用されたトランスアクスル方式。これは基本的にFRの一種ですが、エンジンだけ前に、クラッチとギアボックスを後に振り分けたものです。前後にほどよく重さがのしかかるため、コーナーでは誰もが上手に運転できます。上3つのいいところを全部足した様な感じです。少なくともこれまで僕が運転したクルマの中では、全てのコーナリングにおいてベストです。Alfaのオリジナルと言っても過言ではないでしょう。元々は戦前のAlfaのレーサー(Tipo158 Alfetta)で使われました。だから、戦後のアルファにこの方式を採用した時、昔を懐かしんで「Alfetta」の名前が付けられたという由縁。
 クルマの重量バランスを理想的にするためには、エンジンをクルマのド真ん中に置く「ミッドシップ方式」が最高と言われます(今のフェラーリとかF1マシン)。しかしミッドシップだと2人しか乗れなくなります。そこでアルファはセダン用に戦前のレーシング技術を再登場させた訳です。ただ、この方式は精度やコストがベラボウなため、本気で採用したのはAlfaのみ。あとは1960年代にランチアがホンのすこ〜し、そしてAlfettaの後にポルシェが片手間に採用しましたが、みんなアホらしくてやめたみたいです。つまり理想に勝ち過ぎる仕組なのです。(「そこがいいんだよ」というあなたは既にトランスアクスラー)



32に続く