シート
 欧車好きの間では欧車のシートを手放しで誉める傾向がある。ポイントを外したシートを見つける事自体難しいからこそ誉める人が多いのも当然と言えば当然だ。が、それはそれで頷ける事として、さらに敢えてヨーロッパ車とてピンキリであることも事実だし、人間工学的に万人にフィットする万能シートは今のところ欧車にもないと断言はできる。
 長時間乗っても腰が疲れない事で有名なレカロですら、座面高が調節できないものの場合、膝上膝下が短い日本人では大腿部が圧迫されて辛さを訴える人が少なからずいるはずである。もっともこの現象は4〜5時間を超える連続ドライブでないと出ない事で、それ自体レカロの凄さではある。

 欧車のシートをなぜここまでベタホメするかと言えば、それが「椅子」としての最低条件を満たした上で、走行の目的やクルマの性格に合わせているからだ。ことほどに日本車のシートはいまだ「椅子」というものの概念を取り違えており、しかも無目的だ。最良のものでも「そこそこ」ですらない。まず1リッターカーも4リッターカーも座面が浅すぎる。そもそも椅子とは「尻」で座るのではない。椅子の道具としての最低必要条件とは「大腿部と臀部を均等に支える」というものだ。もはやその時点で失格。身長とか足の長さじゃないのである。先のレカロではないが、実は自動車シートではこれだけでは不足で、大腿部に「線」で支える部分が一箇所必要になる。メーカーはどこも全く気付いてない様だが、実は日本人にとって調整機能が必要なのは、何を隠そうこの部分なのだ。次に背面。「人間工学」と称して、やけにエビゾリ状になっているものがあるが、あれは「猫背になるよりはマシ」程度の効果しかなく、やるだけ無意味だ。自動車のシートにおいては背面は直線でも一向に構わない。むしろ背中から降りてきた上半身の体重が臀部だけにかからないように、腰椎のあたりにサポータの存在が重要になる。ただし、決して直立不動や「デッチリ」の人のための「ランバーサポート」とは意味が違う。そもそも本来は調整も不必要なものなのだ。
 方や、座面圧分散は測定装置か何かで計って作っているのではないかと思われるほどにうまくできている。が、これも間違いの元だ。「尻」に全ての体重がかかる以上は、そこでいくら理想値を出しても意味がないどころか、長時間座っていると大腿骨の付け根に鬱血した様な痛みを伴ってくる。いいシートと言われるものは、この部分が密着しないか極端に柔らかくなるように作られているのが分かる。つまり、面圧で均等な値を出す事自体が、実際には逆効果になるという訳だ。
 どうせハイテクを使うなら、シートメーカーは試しに首から膝にかけての全ての点圧をとって、人間の血管の流れと重ね合せてみるといい。おそらく今までの臀部面の構造は劇的に変わるはずだ。少なくとも、想定ユーザーの体格やコストの違いで椅子自体の本来性能が変わったりすることは決してないし、座面や背面にいらぬコストをかけて妙なカーブを付ける必要もないはずだ。
 偉そうに書いているが、僕は残念ながら椅子マニアでもオーソリティでもないし、実際に椅子を作るには上の様な能書きだけでは全く足りない。しかし、素人でも椅子の生活をして「いい椅子とは何か」を考えれば、誰にでもすぐに分かる基本的な事だ。日本車のシートが今だにそれすらできていないというのは、おそらく開発以外の事情(例えば開発費を出す責任者が居酒屋が大好きだとか、ドライブが嫌いだとか)があるに違いない。もっともその前にシートのデザインを「スタイリスト」にやらせちゃいけない...事は言うまでもないか。



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