44:75の弱点(2)(1998/11/18)

 Alfettaの場合、80km/h付近の速度域では、よほどコーナーがきつくない限りはエンジンの非力さやサスの粘りのバランスのせいで、もともとアンダーを出すという事はかなり難しいセッティングになっています(自動車のサスとタイヤが元々持つ遠心力への抵抗力を常識的に使っての話を前提にしています)。仮にアンダーが出ても、それは前輪がこらえ切れなくなって起きるのではなく、車体全体が遠心力に負けるという様な感覚で起きます。だからアンダーが出てからアクセルワークで鼻先を内側に向ける事もできるし、例えば逆にアクセルをオフにしてもさほど極端な荷重移動が起きないために、自然なタックインを誘発させることができます。良くも悪くも足がパワーに勝っており、ドライバーにとっては面白みのある優しい仕様です。

 75の場合は一旦前輪が破綻を始めると、それはとめどもないアンダーを示す事になります。
意識的にドリフト状態(あるいは後輪のスキッドを盛大に起こす)に持って行きたい場合には確かに有利ですが、これでは不慣れなドライバーや悪天候の場合には、極端なオーバーステアを起こす要因にもなります。スピンの兆候です。
 例えば、75にはLSDなるありがたい装置が付いていますが、このLSD、通常の走行状態では効いた試しがなく、スポーツ走行になるといきなりドライバーの腕を超えて極端に働きはじめます。その結果「馬力がいつも足りないアルファ」のつもりででラフにアクセルを開けたりすると、とんでもない事が起きてしまいます。

とんでもない事が何かを具体的に説明しましょう。
まず、前輪が明らかなアンダーを出してしまう様な状態でコーナーに突っ込んでしまった場合、75ではAlfettaの様なタックインを起こすことは不可能です。荷重が完全にフロントに集まっているため、普通のFRと同様、アクセルオフはできません。

 なのでスロットルをなるべく開けてやる事になりますが、75は車重が重い割にはAlfettaに比べてハイギアードになっているため、通常の走行状態では必ずと言っていいほど「トルク不足」が起きます。もちろんこれではLSDの効きはあまり期待できません。だからプッシュアンダー気味になってしまいます。プッシュアンダーはAlfettaにもあってむしろ75よりも強いのですが、タックインという非FR的な手法がまだ公道なら使えるだけマシです。
 そこでエンジンパワーを使って荷重移動させるハメになります。(何のためのトランスアクスルなんだろう?)常に5000rpm〜レブリミット付近でコーナー時のギア比を選択する必要性が出てきます。この事は、公道ではかなり非現実的であり、よほどコントロールに慣れてないと2〜3度は怖い思いをします。(それがイタ車でありスポーツドライビングだと言う考え方もありますが)

 もし十分にトルクをかけられるとしましょう。今度は次の様な難関が待ち受けています。
トルクを後輪にかけても、荷重移動は緩やかにきます。なので、アクセルはついつい大きく開けてしまいがちになります。そうするとエイペックスポイントの通過付近から加速体制に持って行った時にLSDが効くことがあります。これは突然来ます。だから前輪の破綻が収束してしまってからもステアリングを戻さなかったり、アクセルワークをぞんざいにしたりすると、出口付近で決まって派手なテールスライドを起こします。どういう事になるかは、体験した人ならその恐ろしさはよく分かると思いますが、75TSはその傾向が強いように思います。

 これはLSDが効き始めるトルクをもっと強くすれば解決するらしいのですが、僕はどうも前サスとのバランスの関係の方が気になります。走り込む事が多くなるにつれ、どうもその挙動の不審が頭から離れなくなってきました。

 もし前荷重がもっとスムースに後に移ってくれさえすれば、すぐに前輪が収束に向かうために後輪の接地も回復するはずなのですが、75はなかなか後輪の接地が決まらないために、サスの状態が悪かったりすると、ドライバーの意図とは無関係に後輪が暴れ出したり、トルクステアがいつまでも続いたりするのです。実はこの現象はとあるミニサーキットの走行会で実証してしまいました。アクセルをオンにしてもオフにしてもスライドが収まらない。非常にアクセルワークの難しい、まるで出来の悪いFFに乗っている様なフィールです。
Alfettaと比べて75が進歩してない…というよりも決定的に退化してしまっている点がここです。ロールの出方が前後で差があるから起きる事なのです。



45に続く