ぐうたら犬と暮らそう

覚え書きに至る経緯(2)

 ところでノーリードでのコントロールの基本は、警察犬訓練などで行われている「脚側行進」というものです。この脚側行進法というのは、実際にやってみると分かりますが、単独でこれを入れても、一般家庭の実生活ではほとんど役に立たないものだったりします。

 ゴルビー(シベリアンハスキー)は、この脚側行進が大の得意でした。ラインに沿って、僕の左側にぴったり身体を寄せながら僕を見ながら完璧な歩調で行進できる犬です。もちろんそれだけでなく、殆どの科目についてノーリードで完璧にこなします。CD(家庭犬訓練試験)の相当上のクラスの実力を持っていました。

 ところが一歩フィールドを離れた瞬間、いくらツケと言っても引っ張りまくり(実際には少しは効く。けれどもすぐに抗議しはじめる)、ハーネスが外れればあっと言う前に大気圏のかなたへ消え去ってしまうという、ノーコン犬でもあったのです。バカバカしくて笑うしかありません。僕自身、ロクな飼い主ではなかったということです。

 そんな訳で僕は個人的にいろいろな書籍、サイトを漁っては「コンパニオンドッグでもノーリードでコントロールする方法」について知ろうと努力してきました。しかしその希望に、真摯に答えてくれる情報はどこにもありませんでした。

 それもそのはず、日本ではノーリードで犬をコントロールする訓練というのは、一部のプロだけに許された「秘伝」であり、一般 にそのノウハウを公開するというような奇特な人などいないのが当たり前です。

 また、それらしい方法が書いてあったとしても、ジャーキー(おやつ)を使う方法だったり、生まれつき聞き分けが素晴らしく良い子でないと通 用しない方法だったりして、決め手にかけるものばかりでした。(ジャーキーを使う方法は、結果 をすぐ出さなければならない時には有効ですが、定着のためにはかえって時間と労力が要るということを経験で知っていました)

 結局、僕は自分でシュミレートし、実践し、試行錯誤を繰り返しながら自己流でノーリード訓練法を考えざるを得ませんでした。最終的には、ゴルビーもどうにかコントロールが効く様に変化してきて、僕は少しずつ自分の方法に自信を深めてゆきました。

 もっとも、ここにノーリード訓練の方法を公開したからといって、誰しもがこの訓練をマスターできるとは限りません。おそらく犬の個性、飼われている環境、あるいは遺伝的性格、犬種や血統、幼犬期の環境などにも大きく左右されるかもしれません。僕はまだハスキーとラブラドールでしかこれを確認できていません。つまり、この記述自体も不完全なのです。

 そして何よりも、ノーリードが社会に及ぼす影響について、正しい認識ができなければ、この訓練法は誰にとっても意味も効果 も持たないような気がします。

 けれども、もし自分の愛犬の性格や性能を知って、この記述を元に本気で自分なりの訓練に取り組めば、誰でも確実に「見えないリード」が愛犬との間に存在する、そういうシーンを必ず感じることができるようになるのではないかとも期待しているのです。

 その先に見えるのは、ドッグランなんかあってもなくても、犬OKの公園があってもなくても、リードを付けても付けなくても、肩の力を抜き、自然なスタイルで犬と一緒に町を散歩できる、そういう楽しげな人と犬の姿です。



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