35:75TSインプレッション(4)(1998/03/11)
(4)75のコーナリング素性

 それほどベタホメするトランスアクスルだが、現代の水準から言えばズバ抜けて限界が高い訳ではない(10〜15年前までならズバ抜けていたが)。
 75TSやAlfettaを代表とするトランスアクスルアルファは、「オンザレール」を身の上としているクルマとして有名だ。しかし、実際には、アルファのオンザレールとは常に実用速度内に限っての素性だ。そしてそれを超えた「限界速度域」という考え方が、実はアルファのコーナリングの面白さを語る上で重要な分岐点になる。

 サスペンションというのは、実用域での快適さがスポーツドライビング時の挙動にいい影響を与えることは常識的に言えば稀である。このことはクルマのマルチパーパスツールとしての存在意義に少なからず矛盾を含んでいる。一旦限界を高めるチューンを始めれば、それは実用域での快適さのスポイルをも意味する。さらに絶対スピードのアップとドライバーとの戦い、すなわちドライビングテクニック向上とのイタチごっこをも意味する。
 理論よりも感覚的な話にはなるが、この矛盾をどう解決しているかが実用車のスポーツ感覚を語る上で必須の条件になると僕は考えている。

 アルファのノーマルセッティングは、その辺にひとつの解を見い出している。それが「限界速度域」だ。
75TSの実用域においては常に「オンザレール」である。
しかし、スポーツコーナリングは決して「オンザレール」ではない。しかもクルマの限界でもない。
 つまり、乗り心地と限界性能の両方を手にするために、「オンザレールと非オンザレール」の中間域を広く取るという手法を取っているのだ。日常使用時においては確実に路面をグリップするが、その限界は通常の乗用車と同レベルに一致するか、やや高めに抑えている。それが乗り心地の良さをスポイルさせない秘訣。そして、実用域スピードを超えてもなお、75TSには広い「その先」がある。グリップの破綻域が訪れた時にすぐに危険域に突入するのではなく、グリップは失っていてもコントロールが可能な範囲があるのだ。それはFR特有の危険域を積極的に使ういわゆる「ドリフト走行」とは全く違う。「破綻」と呼んでいいのかどうか迷うほど自然な挙動なのだ。もちろんタイヤの選択によってもこの域の幅は変動するが、どちらにしても実用域に戻るか、スポーツするかぐらい選択できる余地はある。
 実はトランスアクスラーがこだわるアルファの必然性は、ほぼこの部分に集約される。絶対的な破綻限界を高めるための機構として見れば、トランスアクスルはそれほど理想的であるとは言えない。そうではなく、破綻を来してからの「素性」がトランスアクスラーのこだわりのキモなのだ。とある初めてAlfettaを運転した人は、どこでタイヤが滑り始めたのか、初めのうち全く認識できなかった。僕もそうだった。これを「怖い」とみなすか「余裕」とみなすかは人それぞれだが、クルマの限界を知った時はすでに「おシャカ」よりもずっと安全である事は確かだ。
 それより上、レーシングという絶対的な速さが必要となり「実用性」を破棄して構わないと判断したらどうするか?僕はそこまでは試していないが、もちろんそれもありだろう。
 たとえレーシングまでいかなくともドライバーの腕がサスの限界域を超えた時点で、「何をどう替えればアベレージが上がる」という情報は、他のクルマに比べれば圧倒的にクリアに理解する事ができる。いずれにせよ、チューンの着地点をドライバーが自由に設定できるのがアルファなのだ。

 イタリアのテクノクラートが考えるクルマ作りとは、巷で言われるほど能天気でも単純でもないらしい。



36に続く