犬がリーダーシップを取りたがるあまり、言うことを全く聞かなくなってしまったり、噛みついたりして手に負えなくなってしまうことがあります。こういう状態を、権勢症候群とか、アルファ症候群と言います。 この権勢症候群の概念は、以前は犬の遺伝的性格のせいとして片付けられていましたが、最近は飼い主の自覚の問題としてクローズアップして扱われるようになってきました。ですが、実際には権勢症候群の全てが飼い主のしつけが原因で起きる訳ではありません。元々権勢欲や警戒心が並はずれて強い個体の素質が原因になっている場合の方がずっと顕在的で問題も深刻です。そのため、子犬の段階でそういう素質をチェックする方法が確立、実践されています。また、素質的な権勢症候群には去勢という方法も採られています。 むしろ家庭でのしつけが原因で起きている問題の多くは権勢症候群というよりは、単なるポジショニングの逆転とか主従の破壊と呼んだ方がいいようです。 また他に、権勢症候群と混同しがちな事として犬種特有の人間観があります。例えばハスキーなどのスピッツ系にありがちなのは、まるでポジションなど存在しないかのように振る舞う犬がいたりすることです。ハスキーなどはこれがこの犬種の醍醐味でもあり、逆に扱いづらい部分でもあったりします。 彼らにとって、基本的に人間というのは順位の勘定に入っていません。ここが他の犬との大きな違いです。これはちょうどソリを引くときのレイアウトに当てはまります。彼らにとっての真のリーダーとはソリを先頭で引っ張る牡犬です。そしてそのリーダー犬とソリ上から意志の疎通 を図っているのが人間という訳です。 この構造は主従関係がどうのこうのという表現とはほど遠くて、どこかで一線を引いたような態度が残ります。これを不従順、あるいは権勢的だと感じる人も少なくありません。けれども実際この人間観がなければ彼らがソリを引くことはできないわけで、よく観察してみれば決して不従順な態度を取っている訳ではないのです。彼らと強固な信頼関係を結ぶためには、自分をソリ上に置いて、彼らと達成感を共有しなければならないのかもしれません。 こういう犬種特有の行動パターンがきちんと分析されることもなく今まで放置され、主従を基本にしているレトリーバーや牧羊犬と単純に比較され、機械的にアルファ的であるとかそうでないとか、家庭犬に向かないと安易に判断されるのはとてもかわいそうな事です。 |
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