ぐうたら犬と暮らそう

犬の挨拶

 他の犬と仲良くできる、権勢欲のない性格の犬が最近の傾向なんだそうです。以前の日本の飼い犬のスタンダードだった「番犬」の存在価値がまるで嘘のようです。確かに犬同士、仲が悪いよりはいい方が微笑ましいし、トラブルも少なくて済みます。犬自身も楽しそうです。そういう訳で散歩の途上では犬同士の挨拶からはじまる、いわゆる「公園デビュー」「ワンちゃん集会」が隆盛を極めています。

 この現象については、三つはっきりしている事があります。ひとつは、この「犬の挨拶」が流行しているにも関わらず、自分の犬が他の犬と仲良くできずに悩んでいる人が多いこと、ふたつめは、咬傷事故が頻発していること、もうひとつは、プロによる警察犬訓練や家庭犬訓練では例外なく「犬同士は近くにいても無視し合う」のが鉄則になっていて、そのための訓練をわざわざするということです。つまり、犬の挨拶は必ずしもスタンダードな事なのではなく、むしろそれ自体に賛否両論あるというわけです。

 都内でゴルビーと暮らしていた頃、近所に林試の森という大きな公園がありました。犬の散歩コースになっていて、あちこちからいろんな犬たちが集まってきていました。当時ここは都内では砧公園と並んで大きな犬の社交場になっていました。記憶が正しければ、ゴルビーと林試の森に行き始めた頃には、犬の挨拶はまだ一部の「犬種愛好家」とおぼしき人たちの間で行われているだけで、大きさが違ったり、犬種が違ったりした場合には近づけるような雰囲気はありませんでした。ですから「ワンちゃんのごあいさつ」はそんなに古い流行ではない様に思います。

 もし中・大型犬と暮らして行く上で、しつけで悩みたくなければ「犬の挨拶」の習慣はやめておいた方が、面 倒事も苦労もずっと少なくて済みます。なぜなら、メリットよりデメリットの方が多すぎるからです。だいたいにして犬同士の社会性が育つのは、自分と暮らし始める前、つまりブリーダーの元にいた時にほとんどできあがっています。一説では母犬と暮らす30日間と、その後数十日間の兄弟や仲間の犬達とのやりとりで全てが決まるとも言われています。要するに、普通 に健康的な犬ならば、迎え入れてからの、例えば上下関係や社会性は飼い主自身が教えれば済む話であって、犬同士の上下で覚える必要はないという事になります。

 他の犬と仲良くできずに困っているとすれば、もし愛犬が人間社会の中では全く問題ないのだとしたら、悩むのはやめて、公園を散歩コースから外すか「犬の挨拶」をしたがる人たちが散歩している時間帯を外した方が賢明だと思います。家庭犬は人間社会の中で歓迎されてこそ幸せに暮らせるのです。たとえどんなに犬社会で歓迎されても、人間と暮らす上ではあまり意味はありません。

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